児童虐待に関する法律としては、平成一二年一一月から施行された「児童虐待の防止等に関する法律」があります。
この法律は、どのような行為が児童虐待にあたるのかを定義し(第二条)、「何びとも、児童に対し、虐待をしてはならない。」という文言で、親や保護者による虐待も明確に禁止しています(第三条)。そして、児童虐待を防止するとともに虐待されている児童を早期に発見し適切な保護を行うことが国と地方公共団体の責務であるとして(第四条)、児童相談所を行政の中核機関と位置づけました(第八条)。また、児童虐待を発見した者に対し児童相談所または福祉事務所への通告義務を課し(第六条)、学校の教職員や児童福祉施設の職員、医師、保健師、弁護士等には早期発見するよう努力することを義務づけています(第五条)。
このほか、児童虐待のおそれがあるときは、都道府県知事は職員を児童の住所・居所に立ち入らせて調査を行わせることができ(第九条)、その際には警察官の援助を求めることができることになっています(第一〇条)。
DV(ドメスティック・バイオレンス)に関する法律としては、平成一三年一〇月から施行された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」があり、一般にDV法と呼ばれています。
DV法はその前文において、「配偶者からの暴力は、犯罪となる行為であるにもかかわらず、被害者の救済が必ずしも十分に行われてこなかった。」ことを反省し、人権擁護と男女平等を実現するためにはDVを防止し被害者保護の施策を講じる必要があるのでこの法律を制定するのだ、と宣言しています。そのための中核的行政機関として、各都道府県に「配偶者暴力相談支援センター」の設置を義務づけ(第三条)、従来対応が極めて不十分であった警察に対しては、通報等によってDVを認めたときは暴力を制止し、被害者を保護する等して暴力による被害の発生を防止するよう努めなければならないものとしています(第八条)。
このほか、DV法では、生命・身体に重大な危険を受けるおそれが大きいと認められる被害者からの申立を受けた裁判所が、暴力行為を行っている配偶者に対し、「保護命令」を発することができます。保護命令には、被害者の身辺につきまとったり、被害者の住居や勤務先等を徘徊することを禁止する「接近禁止命令」と、被害者と同居している住居から二週間立ち退くことを命じる「退去命令」の二種類があります(第一〇条)。保護命令が出されると、裁判所から警視総監または都道府県警察本部長に対して通知され(第一五条)、保護命令に違反した者は一年以下の懲役刑または一〇〇万円以下の罰金刑に処されることになっており(第二九条)、統計によれば警察に逮捕されるケースも多いようです。
このように、児童虐待とDVについては、それぞれ特別の法律が制定され、虐待や暴力の防止と早期発見及び救済のための中核となる行政機関が明確に位置づけられており、虐待が疑われる場合の住居への立入権限や、刑罰による間接的強制力の裏付けを持つ裁判所による保護命令の制度があるなど、まだまだ改善の余地は大きいとはいえ、虐待や暴力の防止と救済のシステムが動き始めています。
ところが、高齢者虐待に関しては、特別の法律が作られていないため、どのような場合が高齢者虐待にあたるのかの定義すら存在せず、虐待を禁止する法律の規定もなく、虐待を発見した人が通報しようと思ってもどこに通報したらよいのかもわかりません。通報を受けた行政機関の方でも、「うちの仕事ではない。」と言って責任を回避したり、虐待している家族が虐待を否定したり、「家庭内のことに口出しをするな。」などと強い態度に出ると、それ以上動こうとしない、等の消極的な姿勢が問題となっています。