アメリカでは、1992年、連邦高齢者法(OAA)の改正により、連邦が各州に対し、高齢者の人権保障を目的とする三つの施策、
を具体化することを義務づけました。
このうち、「高齢者虐待・介護放棄・搾取の防止」のための施策については、
@各州において「高齢者虐待・介護放棄・搾取防止」法を制定すること、A州当局は虐待等の事実またはその疑いについて通報を受けた場合は、迅速に調査し事実確認を行うこと、B虐待等の事実が確認された場合は、州当局は救済のための適切な措置をとること、C警察、検察などの法執行機関や裁判所との連携を図ること、D市民に対する教育・啓発を行うこと、E高齢者虐待問題の専門家をようせいすること、
等が柱とされています。
このような施策の具体化の仕方は州によって異なるので、私たちが見聞したペンシルバニア州のフィラデルフィア地域の実例について説明します。
フィラデルフィアでは、PCA(Philadelphia Corporation for Aging)という同市最大級のNPOが通報・相談・救済の実務にあたっています。24時間対応の専用電話があり、通報・相談があれば迅速に調査を行い、救済策を検討します。
虐待者から引き離すために必要であれば、PCAが裁判所(Orphan Court)に申立を行い、概ね1週間から10日の間に保護命令や退去命令を出してもらうことができます。緊急を要する場合は申立後2〜3時間のうちに一時的命令(Temporary Order)が発せられることもあります。裁判所に持ち込まれる件数はすさまじく多く、一日あたり約六十件にも上り、これを二人の裁判官が処理しているとのことでした。
また、被虐待者の判断能力がなく成年後見人が必要な場合には、PCAが成年後見の申立を行うことができます。虐待を疑われる事実を知った人には通報義務を課している州が多い中で、ペンシルバニア州ではこのような義務を課していないのが特徴です。歴史的に人権意識が高く、自主性を重んじるのが同州の特徴であるとの説明でした。
そのほか、フィラデルフィアにはシニア・ローセンターというNPOがあり、専属の弁護士七人とボランティアで年に数件のケースを担当する登録弁護士をスタッフとして抱えています。驚くべきことに、裁判所への申立や訴訟もすべて無料でやってくれます。虐待だけを取り扱うのではありませんが、2003年だけで8000人から相談を受け、170件の事件を受任したということでした。同じ弁護士として頭の下がる思いがしました。
以上、限られた字数の中でほんの一端しか紹介できませんが、アメリカでの高齢者虐待防止・救済システムについてイメージをつかんでいただけたでしょうか。
今年(2005年)の10月20日に、日本弁護士連合会が「高齢者虐待を防止するための提言」を発表しました。その内容は、現行制度の下でもできること、しなければならないことの指摘に加えて、現行法では対応が困難な事情を踏まえて、立法化にあたっての重要なポイントを、
と整理して提言しています。(http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/iken/04/2004_58.html)
また、近畿弁護士会連合会も11月26日にこの問題でのシンポジウムを大阪で開催し、立法私案の紹介も行われました。
このように急速に社会の関心は高まりつつありますが、より良い制度をつくるためには、各現場からさらに声を上げ、国会へ届けることが必要です。
コラム1)「社会保障・社会福祉110番」終わり
※当事務所の阪田健夫弁護士が「福祉のひろば」にて、2004年11月号から2005年1月号まで3回にわたって連載した文章です。